受賞のことば

八束 澄子

 若い頃(何年前かなんて聞かないでほしい)、母子寮で学童指導員として働いていました。そこでの子どもたちとの日々は今もわたしの宝物です。いつかこの子たちに届けられる物語を書きたいとの願いを胸に結婚退職して、十数年後、初めて出版した本を母子寮に送らせてもらいました。するといきなり寮長からお叱りの手紙が届きました。「こんな大変な時代にぬくぬくと児童文学にうつつを抜かしていていいのか!」と。うつつを抜かしてるつもりもぬくぬく書いてるつもりもなかったわたしは驚きました。「わたしはわたしのやり方で戦っているだけだ!」と心の中では抗いつつも、その言葉はやっぱり小さなトゲとなって残りました。
 今回、厚生労働省からの賞と聞いたとたん、あのときの寮長の言葉がよみがえり、了見の狭いわたしはひとり、「フ、フ、フ」とほくそえみました。(すでに鬼籍に入った人になんて不謹慎な)。
 同じころ、埼玉県在住の男性からお便りを頂戴しました。市の移動図書館で『団地のコトリ』を借りて読んでくださってのご感想でした。かわいいピーコのイラストまで添えられていました。「養子に迎えられる六歳まで施設の子であったゆえ、なかなか平常心では読めませんでした」とありました。ドキリとしました。それこそがわたしの恐れていたことだったからです。そのうえで、「陽菜ちゃんがちゃんと個を持つ子であるので、ちゃんと生きられる人なんだなと安心できます。すてきな登場人物たっぷりの物語をありがとうございました」と書いてくださっていました。その優しさに救われると同時に、ドンッと背中をどやしつけられた思いがしました。ほくそえんでいる場合ではない。賞よりなにより、この方のこの言葉こそがわたしにとっての勲章なんだと、あらためて身に沁みました。いつものことながら、またまた読者の方に救われた次第です。すぐにブラックな感情にからめとられそうになる自分を戒めつつ、もう少し頑張ってみようと思いました。

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