受賞のことば

安田 夏菜

 初めて季節風大会に参加したときは、まだ東大前の古びた旅館が会場でした。ぎしぎしと鳴る廊下。水色のタイルが貼られた洗面所。ひねって水を出す旧式の蛇口。土壁に畳の部屋。
 昭和な匂いのするその旅館に、各地から持ち寄られたお菓子が広げられたころは、まだまだ平和でした。しかし、その後の合評。遠慮会釈もない感想と、火がついたように紛糾する議論。静かにそれを聞く作者もいれば、頬を紅潮させて泣き出す作者もいる、たぶん、関係ない人が外から見たら、「引くわー」という感想が述べられるに違いないあの空間。
 二日間に渡る畳生活に、正座から横座り、体操座り、また正座と身をよじりながら、その濃密さに魅せられてしまった私なのでした。いろんな作品を、ここで鍛えなおして頂きました。「あしたも、さんかく」も、「あの日とおなじ空」も「ケロニャンヌ」も「レイさんといた夏」も季節風に出したものが原型なのでした。
 このたび、日本児童文学者協会賞を頂いた「むこう岸」も、2017年の「はりきっていこう」分科会に提出したものです。格差や貧困というものをテーマに書くことは、たいへん腰の引けるものでした。そこをなんとか持ちこたえ、取り組むことができたのは、あの濃密すぎる時間に、体の芯を支えられていたからだと思わずにはいられません。
 私はもともとパワーの弱い人間で、「魂を削って書いているのか」「覚悟はあるのか」と問われると、「いえいえ、申し訳ありません」とうなだれがちになります。けれど、そんな私に、季節風はいささか体育会的に、力を注入してくれたのでした。魂の熱量を増やしてくれたと申しましょうか。
 とにもかくにも、「ありがとうございました」というお礼の言葉しかありません。「お礼を言ってる場合じゃないぞ。次に何を書くかが問題だ」という声も聞こえてきそうですが。

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