受賞のことば

田沢 五月

 岩手県芸術選奨は県内で発表された出版物、演劇、音楽、舞踊、能楽、邦楽、舞台美術、映像の中から選出されます。昨年の受賞は、能楽についての随筆集を出版された方、モダン舞踊を発表された方など様々でした。
 ありがたいことに、その中に入れていただいた私の小説「田老の町で生き抜いて」は、故郷岩手県宮古市田老(旧田老町)が舞台です。
 主人公のモデルとなった女性は十五歳で昭和の津波に遭いました。奉公に出た後結婚するも、夫は三人の幼い子を残して大平洋戦争で戦死。先代が明治の津波からの生活再建のためにつくった多額の借金も背負います。
 それでも「じょうぱり」な性格で、弱音を吐きません。周囲を笑わせながら困難を乗り越え、町の発展にもつくしました。3・11の時は九十三歳と高齢ながら、避難所で「笑ってがんばっぺす!」と拳をあげておられました。
「この人の人生を書くことは、苦難の時代を逞しく生き抜いた多くの浜の女たちの姿を残すことになる、今度の震災で苦しまれている方々にも読んでいただきたい」の一心で、片道三時間半の仮設住宅へ五年間通い取材しました。
 出版は地元の小さな新聞社さんに泣きつきました。絵も地元の漁師画家さん、帯は市長さんが書いてくださいました。
 自ら書店を回り営業もしました。よくやったものだと少し呆れています。
 編集者もいないので手作り感満載で、方言まみれの拙い本ですが、地元の書店で年間売り上げ第一位をいただいたときには「じょうぱり」してよかったと思いました。そしてこのたびの岩手県芸術選奨というありがたいおまけまでついて感激しています。
 とはいえ、県外の方にこの本のことを知っていただくチャンスはなかなかありません。ですから、この欄にお声がけいただいたときには嬉しくお受けしました。ありがとうございます。

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