受賞のことば

繁内 理恵

 このたび、日本児童文学者協会の作家特集評論に、「朽木祥の『八月の光』が照らし出すもの」を選んで頂きました。この評論は、ヒロシマをテーマにした朽木祥氏の 『八月の光』という作品を読み解くことで、私たちが過去に置き去りにしてきたもの、そして今だからこそ子どもたちに手渡さなければならないものを明らかにしたいと思って書いたものです。
 書評を書き始めたのは、子どもたちやお母さんが、本を選ぶときの手助けになればという、ごく気軽な動機からでした。情報は溢れていても先が見えにくい、閉塞感が漂う時代に、本という「どこでもドア」を通して心の自由を手にして欲しい。本という扉を開いて違う世界を旅することで、苦しい気持ちや傷ついた心が、ほんのちょっとでも楽になればいい。そう思って書評を書いていたのです。
 でも、私は最近少し違う角度から「本を読むこと」を考えています。学校の勉強は、すぐに答えを出すことを求められますが、人生で大切なことは、大切であればあるほど簡単に答えが出るものではありません。本を読むということは、その答えの出ない問題に、時間をかけて向き合うことと深く結びついているのではないかと思うのです。今、特定秘密保護法案や憲法改正など、不穏な動きが出始めています。時代が抱える複雑な問題に、戦争や弾圧といった安易な解決方法で立ち向かうことが、いかに悲惨な結果を生むかを、ヒロシマからたった七十年あまりで私たちは忘れようとしています。
 子どもたちが「生きていて良かった」と思える今と、未来を歩いていけるように。たった一人の心に、その喜びや悲しみにじっくり向き合い、問い続ける物語の力こそが、静かに自分と対話し、考え続ける心の芯を育てるのではないかと思うのです。この「季節風」という、物語の力を信じ、日々努力していらっしゃる皆様と一緒にいられる場所で、これからも児童文学のことをしっかり考えていきたいと思っております。

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