受賞のことば

佐々木 ひとみ

「ご心配くださいました皆様、ありがとうございました。私と私の家族は無事でおります。これから水を汲み、食料を調達に出かけます」
 二〇一一年三月一四日のSNSの投稿です。電気が復旧し、パソコンが使えるようになったこの日から三月末まで、私は体験したことを綴り続けました。綴ることで平静を保とうとしていたのだと思います。
 翌年、このメモをもとに『がんづきジャンケン』という作品を書き上げ、ある出版社に持ち込みました。結果はボツ。「震災のお話はもういいです」というのが理由でした。今にして思えば、伝えたい思いが溢れ過ぎて物語≠ニしては成立していない、拙い作品だったのだと思います。……が、その言葉は胸に刺さりました。
 そのまま寝かせてしまった作品と再び向き合うことになったのは、二〇二〇年のこと。地元紙での連載がきっかけでした。「震災を体験した地元の方になら受け入れていただけるのではないか」という期待と、「書き留めることで誰かの役に立つのでは」という思いに駆られての連載でしたが、心のどこかに「深刻な被害を受けた沿岸部の方々のそれに比べたら何ほどのものでもない私の体験を、不快に思う方もいるのでは」という不安もありました。結局、心配は杞憂に終わりました。同じように内陸部で被災した方から、「あの体験を語ってもいいんだと、ようやく思えるようになりました」という感想をいただいたのです。
 その言葉に励まされた私は連載終了後、新日本出版社に恐る恐る原稿を送りました。編集の丹治さんの答えは、「これは伝えるべき物語です」でした。長く胸にあったトゲが抜け、救われた思いがしました。
 二〇二三年、震災から一二年目の三月一一日を前に、『がんづきジャンケン』は、『ぼくんちの震災日記』と改題して出版されました。
 初稿から一一年を経て作品が出版され、今こうして季節風の仲間が多く受賞している児童ペン賞の「童話賞」を受賞したことが嬉しくてなりません。あきらめずに伝えることの大切さを学んだ出来事でした。
 この作品が長く読み継がれ、いつか、どこかの誰かが困難に遭遇した時、何かしらの力になってくれることを心から願っています。

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