受賞のことば

酒井 和子

 この度第二十回「長編児童文学新人賞」の佳作をいただきました「竹の風音」は、第四十一回の季節風大会に提出した作品です。同人誌とか、合評会などの経験はほとんどなく、開場より三時間も前に到着。指定された部屋の前でひたすら緊張しながら待っていました。分科会でみなさまが熱くこの作品をご検討くださったことは忘れることができません。ありがとうございました。
 この作品の背景とした「蘭学」は長年心惹かれてきた分野です。鎖国政策の中で海外情報が制限された時代にあって、それでも海の向こうの知識を希求してやまなかった人々の情熱にとても胸を打たれます。彼らの知識は語学学習を通じて、医学、天文学、化学、軍事、法律等々森羅万象に及び、明治につながっていくのですが、学校では「解体新書」くらいしか扱われていないのを残念に思っていました。それゆえ、今回、この作品をすくいあげていただいたことに驚き、心からうれしく、ありがたく存じます。
 ですが、応募するにあたっては締め切りぎりぎりまで迷いに迷いました。このようなマイナーな分野ですから、果たして受け入れられるだろうかと自信がなく、それでも徹夜で加筆、修正をし、そのまま郵便局に走りました。
 実は歴史物語を書いたのはこの作品が初めてでした。手元に若干の資料があったので書きやすいと思ったのですが、すぐにそれは大間違いだと気づきました。史実と創作との折り合いをどうつけるのか、どこまで虚構が許されるのかということ等に終始悩まされ続けました。未だその正解は見えませんが、今回身に余る賞をいただいたことで、何度でも考え直し、何度でも書き直そうというエネルギーがふつふつと湧いてまいります。
 そして、何よりも有難いのは、季節風の皆さまが親身になってくださり、温かく、少し厳しく、心からのアドバイスを惜しみなくくださることです。
 「自分にしか書けないものを」という言葉を胸に、これから一層、物語を、自分自身を磨き、書き続けていきたいと思います。

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