私ごとで恐縮ですが、私は十才のころから約三年間、入院生活を送っていました。食事制限、絶対安静という、その年令の少女にとっては過酷な闘病生活でした。
幸いにして、二十才のころには、九十%回復と診断され、それまで、ずっと頭の上を覆っていた灰色のぶ厚い雲のすき間から、青い空が見えた気がしました。
それでも、闘病当時の少女はずっと私の心の中にいました。病の辛さを言葉にすることも、ごまかすすべもわからない十才の少女は、全身で苦しみを受け止め、心がばらばらになってしまったり、苦しみを全身で拒否してかたくなになったりの繰り返しでした。
病の少女を生きてきた私を、忘れようとしたこともあります。心の中から追い払おうとしたり、無視しようと努めたこともあります。それでも、その少女はずっと私の中に居座り続けていました。
私が物語を描きはじめたのは、その少女に向かって語りかけたいと思ったからではないかと、今は考えています。
もし、賞をいただいたこの作品をその少女が読んだら、どう感じたでしょうか? 病の辛さを束の間でも忘れることができたでしょうか? ほんの少しでいいから希望や励ましを感じとってくれたでしょうか?
そして、その少女に、あなたは年を重ねて生き続けることができ、家庭を持ち、大きな賞をいただくようになるのだよと伝えたら、どう思うでしょうか? 信じてくれたでしょうか?
あのとき、生命をあきらめなくてよかったと、改めて思っています。
季節風の場で、みなさんと一緒に学んできました。そして書いてこられたのも、みなさんから刺激を受け続けてきたおかげです。
ありがとうございます。
心より感謝申し上げます。