受賞のことば

みずの 瑞紀

 今回、佳作をいただいた『たびおの音色』という作品を書き始めたのは、今から十二年前になります。
 まだ「みんな違ってみんないい」とか、「多様性」という言葉が今ほど世間に馴染みのない頃でした。
 多数派の意見が正として尊重され、少数派の意見は否として扱われる。「他人と同じ」でなければ、はみ出し者になる。
 そんな空気に触れる度、「社会において、他人と違うというのはそんなに悪いことなのだろうか?」と自身に問い、エリック・サティに心酔し、変わり者と呼ばれるピアニストの少年、たびおと、彼を見守る幼馴染みの一いち葉は という少女が出来上がりました。
 この作品は中編から始まり、時には長編になったり、今回の受賞作のような初稿とまるで違う短編になったりと形を変えながら、十年以上、二人の物語を書き続けて来ました。
「あなたはそのままでいい、あなたは間違っていない」という言葉を、たびおと一葉に託せたら。そんな思いを抱き様々な賞に挑戦するも、一次すら通過出来ずに数年。それでも、この作品にこだわって何年もやって来たのは、「このお話は必ず誰かに届く」と、物語のポテンシャル、そして主役の二人を信じることが出来たからかもしれません。
 この作品が文学賞に残るようになったのは、二年前からでした。最終選考で落選すること二度、三度目の正直で、第8回児童文学草原賞佳作を受賞することが出来ました。

 日々の執筆中、この作品を書いていて良いのだろうか? 書き直し続けることに意味はあるのだろうか? と悩むことは少なくありません。進んでいる道を他人に止められることもあります。自分で迷い、立ち止まってしまうこともあります。誰も正答など知らないし、どこにも早道はなく、どれだけ探しても正解など見つかりません。
 それでも、こうして自分の信じ続けた道で結果を手に出来たことは、「あなたは間違っていない」という気持ちから生まれた物語が、十二年を経て、少し、私の背中を押してくれたような気がしました。
 今回の選考に携わってくださった皆様、いつも支えてくださっている皆様、本当にありがとうございました。

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