受賞のことば

草香 恭子

 平成のはじめから滋賀県民となり、琵琶湖シッポの東、瀬田に住んでいます。
 近年まで、嫁入り道具を長持に入れ、担いできた青竹を婚家の玄関でたたき割って、「もう実家へは帰りません」というパフォーマンスがあったそうです。大阪の新興住宅地で育った私には、受け継がれてきた伝統が奇妙な風習に見えることもありました。
 しかし、令和の時代になった今、伝統的な習わしと、『入り人』と呼ばれるニューカマーとがうまく融合して、生き生きとした街になっています。
 今回の「夏で、祭りで、スペシャルで!」は、街そのものが主役と言っていいほど地域密着のお話です。
 取材の日は八月十七日。一年に一度の祭り本番の日。毎年は、夜にプラ〜と家を出て、直上に上がる花火の見物に過ぎなかった船幸祭(せんこうさい)に朝から密着しました。開始早々、炎天下の建部大社(たけべたいしゃ)でけつまずいて、手水鉢でひざを強打。流血しながら、船に乗せられた神輿を追って、ミニバイクで瀬田川沿いを走り回るというドジでハードな一日でした。
 でも、たった一日で、この祭りを支える人々の熱気にあてられ、この祭りを物語の中心に据えて、転校生の小五の少年を主人公に物語を書きました。地域に対する気持ちが変わってきた自分の経験を重ねた部分もあります。後半、舞台になった氷屋さんも実在で、たった一度だけになってしまいましたが、超おいしいかき氷を食べました。このかき氷をおいしそうに描けたことを審査員の先生方にお褒めいただき、とても嬉しかったです。
「上から読んでも下から読んでも『かさくのくさか』。次は、佳作以上を目指します!」と書いたのは二年前ですが、今回、ありがたいことに『優秀賞』をいただきました。季節風はじめの一歩分科会・児童文学者協会関西センター長編講座・季節風物語分科会と、多くの先輩方のお世話になったおかげです。
 コロナウイルスの未曽有の厳戒態勢下に、授賞式を敢行してくださったちゅうでん教育振興財団の皆様や、そこに遠路出席し、ご講評をくださった審査員の先生方への御恩も一生忘れたくありません。
 ちゅうでん児童文学賞を支えてくださっているみなさんの気概は、船幸祭を支える瀬田の人々の心意気に相通じるものがありました。ほんとうにありがとうございました。

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