「幸子の庭」受賞のことば

本多 明

 この度、日本児童文学者協会の長編児童文学新人賞を受賞させていただきました。知らせを受けて驚くとともに大変喜んでおります。
「季節風」には入会してまだ一年足らずですが、掲載された「詩」に寄せられた感想や秋の大会での合評を通じて、会員の方々にはもう随分とお世話になってきた感じがいたします。特に後藤竜二さんと八束澄子さんには、適切な示唆と温かい励ましをいただきました。
 本当にありがとうございました。

 私は高校生の時から詩を書いてきましたが、自分が散文を書けるなんて長らく思いもよりませんでした。それがある時、ふと書けるかも知れないと思ったのは、自分の中に人間と対話したい欲求がとても強くあり、自分の言葉を出しやすい設定でふたりの登場人物を出会わせさえすれば、いくらでも思いを広げられると気付いた時です。
 何気ない会話に「   」をつけてから喋るときの仕草を書く。そしてそれに対する相手のさり気ない反応から、閉じていた気持ちや思い出が清水のごとく流れ出すまでを書き進めることのぞくぞくする感じ。それはもう病みつきになるほどです。小説から生み出された人間が日常の中でたまに顔を見せ、話しかけてくれることもあります。
 人間の出会いには、それまで生きてきた時間の中で翼をたたんでいた思いが飛立つような一瞬があります。それらをこれからもできる限り文字にしてゆきたい。そのひとつの手立てとして児童文学は私にとって最高の表現の場だと思っています。
 これからもずっと書き続けていきます。

トップにもどる