受賞のことば

いとう みく

 物語を書く理由や動機は人それぞれだと思います。
 わたしの場合は単純に、書くことが好きだから。理由や動機を問われても、正直どう答えればいいのかわかりません。
 ただ、物語を書くときは必ず、描きたい「人」がいます。その人がなにをどのように考えて、どう選択し、どう生きていくのか。それを知りたいという思いを強く持っています。
『ぼくんちのねこのはなし』も、根っこは同じなのですが、書き方や思いは少し違っていました。
 ぼくんちのねこ、というのは、わたしのうちのねこがモデルになっています。飼いねこの闘病中、戸惑いや不安や悲しみや焦り、後悔……そうしたものに押しつぶされそうになったとき、いまの状況を書いてみようと思ったのです。ただし、日記や記録ではなく、物語として。
 書くことは苦しいことも少なくありません。何度も書きながら涙しました。ですが、やはりわたしは、書くことで救われました。
 この作品で坪田譲治文学賞をいただけたこと、とても嬉しく、ありがたく思っています。ありがとうございました。

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