受賞のことば

いとう みく

 家の固定電話が鳴ると、最近びくっとします。あ、べつに、いたずら電話とか怖い人からの催促の電話が多いから、とかではありません。どうか誤解なさいませんように。単純に固定電話が鳴ることが、ほとんどないからです。ここ数年で、連絡はメールでということが圧倒的に多くなり、電話がかかってくるとしてもスマホにというケースがほとんどです。
 そんな秋のある日、固定電話が鳴りました。
 びくっとして、あわてて受けた電話が、「ひろすけ童話賞」受賞の連絡でした。
 え、わっ、本当に? と喜びながら、受賞作が『きみひろくん』だと聞いて、あれ? と思いました。というのは、『きみひろくん』は二〇一九年に刊行された本で、対象とされる本ではないのではないか……と思ったからです。そのことを尋ねようかと思いつつ、いや、ここでへたに気づかせてしまって、「間違いでした」なんてことになるのもなぁ、と、さもしいことを考えて尋ねるのをやめました。結局、編集者さんからも受賞の連絡をいただき、黙っているのも気になって、恐る恐る「あのぉ」と尋ねたわけですが。
 結論から言いますと、二〇二〇年は新型コロナウイルスの流行に伴い中止になり、そのため今年、二〇一九年、二〇二〇年に刊行された本が対象になったということでした。
 受賞作の『きみひろくん』は、わたしのなかではちょっと冒険的な作品です。児童文学、とりわけ幼年童話は、子どものことばにならない思い、というものを大切に書いてきました。『きみひろくん』もそこは同じなのですが、読んだとき、これってどういうこと? 本当のことなの? うそなの? と、どこかわからなさが残る……。つまり、すべてを語らず、読者である子どもに託す部分を残した物語でもあります。
 この作品で「ひろすけ童話賞」をいただけたことにあらためて感謝しています。
 ありがとうございました。

トップにもどる