受賞のことば

千葉 朋代

 この秋「桜色」という作品で小さな賞を頂きました。
 この作品は、野生の鹿「リン」と牧場のサラブレッドとの短い恋の話です。生きる場所も、寿命も違う、言葉も交わせない二頭が、なにを持って恋をしたとするか。異種恋愛をどのような結末にするのか。私なりに挑戦をして書きました。
 二頭が牧柵を越えて、恋を成就する結末もあったのですが、私は二頭に「自分に与えられた場所で生きる」事を選択させました。
 それは、現実的な結論かもしれません。しかし「生きる」事でしか伝えられない思いを描きたかったのです。まだまだそぎ落とすところが多く、洗練された作品ではありませんでしたが、評価して下さった方がいたことを嬉しく思います。
 この話の元になったのは、5歳ぐらいの時に見た鹿と馬の姿でした。牧柵を挟み二頭が同じ歩調で歩いていたのです。二頭が恋をしていたのかは分かりませんが、私の眼にはそう映りました。どこか切ないその情景は、幼い心に強く焼き付けられ、ひとつの物語となりました。私の心を震わせた情景が物語になり、誰かの心を震わせた。その結果がこの賞であるなら大変うれしいです。
 しかし、「さっぽろ市民文芸」という冊子を子どもが手にするのは、なかなか難しいこと。児童文学として書いた作品を、子どもの手に届けるためには、越えなければならない山がいくつもある事も実感いたしました。
 地方都市での受賞をみつけて下さり、仲間として喜んで下さった季節風の皆さま。また、お祝いの言葉を届けて下さった友人や同人誌の仲間に心から感謝いたします。
 受賞の喜びと同時に、自分の作品の未熟さを強く感じています。思いを伝えることは難しく、創作の霧の中を迷い歩いている所です。
 書けども書けども道は開けない。それでも書く事でしか進めない事を胸に刻み、恥ずかしながら受賞の言葉とさせていただきます。

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